会社への損害賠償請求の期限は、請求の根拠によって異なります。生命・身体が侵害された場合、知った時から5年、事故等の時から20年というのが基本の枠組みです。ただし、「何を知った時か」の意味は請求の根拠によって違い、2020年3月31日以前の事故には改正前の民法が適用される場合があります。この期限は、労災保険の請求期限とは別のものです。片方が過ぎていても、もう片方が残っていることがあります。
この記事で分かること
- 安全配慮義務違反と不法行為で、期間と起算点がどう違うか
- 「知った時」が何を指すのか
- 2020年4月1日の民法改正で何が変わり、どの事故に適用されるか
- 時効の完成を止める方法と、労災保険の請求期限との違い
2つの請求の根拠
会社への損害賠償請求には、主に2つの構成があります。どちらで請求するかによって、時効の期間と起算点が変わります。
- 安全配慮義務違反(債務不履行)…労働契約に伴って会社が負う、安全に配慮する義務(労働契約法5条)に違反したという構成です。
- 不法行為…会社自身の故意・過失(民法709条)、上司や同僚の行為についての使用者責任(同715条)、設備の欠陥についての工作物責任(同717条)などによる構成です。
実務では、両方を主張することもあります。どちらか一方が時効にかかっていても、もう一方が残っていることがあるためです。
期間と起算点
| 請求の根拠 | 期間と起算点 |
|---|---|
| 安全配慮義務違反(生命・身体の侵害) | 権利を行使できることを知った時から5年(民法166条1項1号) |
| 同上(長期) | 権利を行使することができる時から20年(民法167条) |
| 不法行為(生命・身体の侵害) | 損害および加害者を知った時から5年(民法724条1号、724条の2) |
| 同上(長期) | 不法行為の時から20年(民法724条2号) |
2つの期間の関係は、どちらか早いほうが到来した時点で請求できなくなるというものです。「知った時から5年」を過ぎていれば、20年が残っていても請求できません。
物が壊れたことによる損害など、生命・身体の侵害にあたらない損害については、これらの特則は適用されません。期間が異なるため、分けて考える必要があります。
「知った時」とは何を知った時か
- 不法行為の場合…「損害」と「加害者」の両方を知った時です。どちらか一方だけでは足りません。誰に責任があるのかが分からない段階では、進行しないことがあります。
- 安全配慮義務違反の場合…権利を行使できることを知った時です。損害が発生し、請求できる状態にあることを認識した時が基準になります。
いずれも、事故が起きた日と一致するとは限りません。特に、時間が経ってから病気や損害が明らかになる事案では、注意が必要です。
時間が経ってから判明する損害
じん肺や石綿による疾患のように、業務から長い年月を経て発症する病気があります。このような事案について、最高裁判所は、じん肺に関する事案で、安全配慮義務違反による損害賠償請求権の消滅時効は、じん肺法所定の管理区分についての最終の行政上の決定を受けた時から進行すると判断しています(最高裁判所 平成6年2月22日判決)。病状の進行の程度によって損害の質が異なることを理由としたものです。
すべての遅発性の疾病に同じ考え方がそのまま当てはまるわけではありませんが、起算点を機械的に「事故の日」「退職した日」と決めつけることはできません。年月が経っていても、まず確認してください。
2020年4月1日の民法改正
2020年4月1日に改正民法が施行され、生命・身体の侵害による損害賠償請求権の時効について、次のように整理されました。
- 不法行為…主観的な起算点からの期間が3年から5年に延長されました(民法724条の2)。
- 安全配慮義務違反…客観的な起算点からの期間が10年から20年になりました(民法167条)。
問題は、施行日より前に起きた事故にどちらが適用されるかです。適用関係は改正法の附則(経過措置)で定められており、事故の時期と、施行日の時点でどれだけの期間が経過していたかによって結論が変わります。
この判断は個別性が高く、一般的な説明で結論を出すことはできません。2020年3月31日以前の事故については、時期を特定したうえで確認してください。
時効の完成を止める方法
期限が近づいている場合、次のような方法で完成を遅らせたり、進行をリセットしたりできる場合があります。
- 裁判上の請求…訴訟を提起すると、その間は時効が完成しません(民法147条)。
- 催告…支払いを求める通知をすると、その時から6か月間は完成が猶予されます(民法150条)。内容証明郵便が使われることが多い方法です。ただし、繰り返しても効果は延びません。
- 協議を行う旨の合意…書面で協議の合意をすると、一定期間は完成が猶予されます(民法151条)。
- 承認…相手方が支払義務を認めると、時効は更新され、新たに進行を始めます(民法152条)。
単に交渉を続けているだけでは、時効は止まりません。会社と話し合いを続けている間に期限を過ぎてしまうことがあるため、注意が必要です。
労災保険の請求期限との違い
| 制度 | 期限 |
|---|---|
| 労災保険の給付 | 療養費用・休業(補償)等給付は2年、障害(補償)等給付・遺族(補償)等給付は5年(労働者災害補償保険法42条1項)。起算点は給付ごとに異なる |
| 会社への損害賠償 | 上記の表のとおり(民法) |
根拠となる法律も、請求する相手も別です。労災保険の請求期限が過ぎていても、会社への損害賠償請求が残っている場合があります。その反対もあり得ます。両方を確認してください。
よくある質問
Q. 会社と交渉中ですが、時効は止まっていますか。
交渉しているだけでは止まりません。書面による協議の合意(民法151条)や催告(同150条)といった手続をとらない限り、期間は進行します。期限が近い場合は、早めに確認してください。
Q. 亡くなった家族について、遺族が請求する場合の期限は。
亡くなった方本人の損害賠償請求権を相続した部分と、ご遺族固有の慰謝料(民法711条)とで、それぞれ検討します。起算点は、ご遺族が損害と加害者を知った時などによります。死亡から時間が経っている場合は、個別の確認が必要です。
Q. 時効が過ぎていたら、何もできませんか。
時効は、相手方が援用(時効の完成を主張すること)してはじめて効果が生じます。また、別の構成による請求が残っている場合や、起算点の判断が異なる場合もあります。あきらめる前に、事故の時期と経緯を整理して相談してください。
まとめ
- 生命・身体の侵害による会社への請求は、知った時から5年、事故等の時から20年が基本です。
- 安全配慮義務違反と不法行為では、起算点の意味が異なります。両方を検討する意味があります。
- 2020年3月31日以前の事故は、改正前の民法が適用される場合があります。
- 交渉しているだけでは時効は止まりません。
- 最初にできることは、事故や発症の時期、診断を受けた時期、会社とのやり取りの日付を書き出しておくことです。
会社への請求については会社への損害賠償請求のページ、責任の判断については安全配慮義務違反のページをご覧ください。
